『泳いで帰れ』(奥田英郎・光文社)

この本は、アテネオリンピックについての

エッセー風観戦記だ。

奥田英郎さんの本なのでつい手にとった。

かるすぎる言葉づかいがおおく、

よんでいてあまりいいかんじがしない。

それでもダラダラよみすすめていると、

野球のオーストラリア戦からきゅうにおもしろくなった。

もうわすれていたけど、

日本はこの準決勝の試合にやぶれ、

かなりの確立でとるだろうと期待されていた

金メダルをのがした。

戦う姿勢にとぼしく、

やたらとバントにたよるこの「ドリームチーム」に

奥田さんは怒りまくる。

引用だらけでもうしわけないけど、

奥田さんがなにについて怒ったかを紹介する。

「9回裏、0対1。先頭の城島が、

初球をセーフティーバントした。結果ファウル。

 わたしは唖然とした。なんだって?

 バントだって?

 同時に猛然と怒りがこみ上げてきた。

 この初球セーフティーバントは、

 自分が何とかしようとする者の行為ではない。

 あとは頼むという、責任回避の行為だ。4番がこれか(中略)

 城島、三振。ワンアウト。

 いきなり嫌いな選手ナンバーワンになっった」

 

 「中村、3塁にゴロを打つ。ドタドタと走り、

 一塁に高校球児よろしく頭から滑り込んだ。

 はっきりと、疑いなく、アウト。

 ああみっともない。おまえは嫌いな選手ナンバーツーじゃ」

 

 3位決定戦の対カナダとの試合でも日本チームはバントを多用する。

 

 「3回裏、先頭の福留が四球で出塁すると、

 宮本が送りバントを試みた。

 おいおい、マジかよー。わたしは激しく落胆した。

 今日ぐらいスカッと打ち勝ってくれよ。

 高校球児かおまえらは(ついに”おまえら”呼ばわり)。(中略)

 続くバッターは3番の高橋。

 ここで目を疑う出来事が起こった。

 ヨシノブがまたしても送りバントをしたのだ。

 ちょっと待てよ。3番でこれかよー。

 わたしはかっとなった。チキンハートにもほどがある。

 サインだとしたら、中畑は、リーダーの器ではない。

 選手の判断だとしたら、ヨシノブは腰抜けだ。

 わたしは思い切り不機嫌になった。

 こんなのはドリームチームじゃない。

 負けることにおびえる小心者の集団だ。 

 

 「試合は進み、8回裏。スコアは7対2。

 先頭の広島・木村拓が2塁打を放つと、

 続く藤本が送りバントをした。

 ははは。完全に見限った。好きにしてくれ。

 ここにわたしの好きなベースボールはない。

 勇敢な戦士は一人もいない。(中略)

 ネット裏ではボードが掲げられた。

 『感動をありがとう。長嶋ジャパン

 でた。ついに出た。感動をありがとう、か。

 わたしは全身の力が抜けた。ものを言う気にもなれない。

 この違和感、疎外感。

 スタンドで一人怒っている自分は、

 もしかしてエイリアンなのだろうか。

 もしここに白い横断幕と筆があったら、

 わたしはこう殴り書きする。

 『泳いで帰れ』」

 

 本のタイトルをみたとき、

 『泳いで帰れ』の意味がわからなかった。

 まさか日本チームがみせた

 プロらしからぬ「戦い」に対する怒りだったとは。

 わたしは奥田さんのこの怒りに共感する。

 いろいろな事情があるだろうが、

 大リーガー相手でもない試合に

 その程度の内容しかみせれないなんて。

 そして、奥田さんがかんじた疎外感にも一票をいれる。

 やさしすぎるファンは代表チームをそだてない。

 甘やかすだけだ。

 アテネオリンピックの次、

 つい最近おこなわれた北京オリンピックにおいて、

 日本チームのふがいなさは、

 このアテネからすでに伏線があったのだ。

 (吉田 淳)