郵便貯金みたいな選手
民営化後の郵政についてではなく、サッカーのはなし。
5日と9日にオランダでおこなわれた国際親善試合、
対オランダ戦と対ガーナ戦は
前者に0対3、後者とは4対3という、
評価のわかれる2試合だった。
はたして日本はつよいのかよわいのか。
ベストマッチだったのか、凡戦だったのか。
西部謙司氏の『戦術に関してはこの本が最高峰』(東邦出版)をよむ。
世界の一流リーグのそれぞれの特徴と位置づけ、
そしてそのリーグに属する有力クラブを、
「戦術」という視点からわかりやすく分析している。
「セルティックは
典型的な英国流4-4-2を採用しているが、
右サイドにプレーメーカータイプの中村を置いている。
これは大変珍しいケースだ」
としてセルティックと中村俊輔の関係についてわれわれにときあかす。
「中村は数秒ほどフリーになる時間を与えられれば、
決定的な仕事ができる特別な才能を持っている。
一方で、ヨーロッパのトップレベルと戦うためには、
スピードとパワーが決定的に足りない。(中略)
ゆえに、中村の良さを最大限に引きだすためには、
彼にいかにフリーになるための時間を与えるかという
チームとしての明確な方針、
加えてチームメイトの協力が必要不可欠だ。
特別扱いは決して認めない英国サッカーと、
特別扱いしないと光らない中村。
はっきりいって、相性は悪い」
「アレックス=ファーガソン監督は、
天才を馬車馬のごとく働かせる手腕で天才なのだと思う。(中略)
走れる選手を天才にするのは無理だが、
天才を走らせるのは可能だからだ。
すくなくとも、ファーガソンにとっては」
この本のおもしろさは、
その解説の明快さとともに、
ほかに類をみないたくみな比喩にもある。
「リケルメを使うのは簡単で難しい。
簡単なのは、全部任せてしまえばいいからだ。(中略)
難しいのは、リケルメを抑えられたらチームの機能は停止してしまうことだ。
リケルメという心臓が止まったら、もうチームに血液は流れない」
「銀行預金みたいな選手で、ボールを預けさえすれば利子はつけてくれる。
ただ、預けなければなにも起こらない」
この本をよむと、現代サッカーの戦術をまなびつつ、
それにいたるまでの歴史的な物語までたのしむことができる。
ある現象を時代をさかのぼって検証し、
なぜそうなったか明快に説明するこのような本は、
ありそうでいてなかなかない。
西部氏はサッカーをめぐるあらゆることへの造詣がふかく、
理論が整然としているので、よんでいて頭がすっきりする。
そして一流の比喩というおまけまでつく超おすすめ本だ。
それにしても、
「銀行預金みたいな選手」なんてたとえをどうやっておもいつくんだろう。
(吉田 淳)