おばさん未満(酒井順子・集英社)

この本は老化についてかかれたものです。

老化はもちろん女性だけの問題ではありませんが、

男の老化はあまりたのしい話題ではありませんし、

男の老化は(本としての)商品価値がないからなのか、

この本でふれられるのは女性にかぎった「老化」となっています。

「負け犬」にはオスもいたけれど、

それにもかかわらず、おもに女性についてかたられたのとおなじなのかもしれません。


「負け犬」の名付け親である酒井さんもいまや42歳となり、

老化という問題にも目をむけざるをえなくなってきました。

国によっては堂々と老化をおもてにだせるところもあるけど、

残念ながらいまの日本はそうではありません。

「年相応」といいながらも、

実は「いつまでも若い」ことが

暗黙のうちにもとめられている社会です。

その日本で老化をむかえるということはどういうことなのか、

20の話題から老化への分析をふかめています。


「服」では年をとるとコットンがきれなくなる、

ということについて、

「腹」では、かって恥部だった腹部のあつかいを、

これからどうとらえていくかについて、

「痛い」では、「何だかあの人、無理をしてますよね。

でもって、他人はその無理に気付いてるけど本人はバレてないとおもってますよね」

という「痛い」のつかい方について。

「口」では40台が使う口紅の色

(くっきり系か、ナチュラル系か)はどうあるべきか。


たとえばロングブーツをはくときに、

「四十代の膝とか膝裏を、たとえ黒いタイツをはいていたとしても、

私はもう見たくない」という感覚は、

バブル世代で、消費者としての偏差値のたかい酒井さんだからこそ見える世相があり、

酒井さんに解説してもらわなければ、

わたしはとてもこれらの現象について理解できなかったでしょうし、

そうした問題があることすら認識できなかったはずです。


観察力が持ち味の酒井さんは、

ユーミンの歌声から老いをかぎとり、

黒木瞳さんの膝上に一本の横ジワをみつけ

「ちょっとした喜びと安堵感」を感じます。

(ちなみに、「後ろから見た時の肘だけは年齢を偽らない」

そうですから、膝とともに肘のお手入れにもお気をつけください)


「JJ」の読者が「VERY」へとながれ、

次には「STORY」が用意されるように、

社会はいつまでも輝かしい生活を消費させようとします。

これからも、50になっても60になっても、

いつまでも「すてきな未来」をいわれつづける、

というのが酒井さんの予想です。

どの年齢でも、その年代特有の問題がうかびあがってきます。

酒井さんは次にどんな現象をとりあげてくれるでしょうか。


『負け犬の遠吠え』で酒井さんの本にであっていらい、

全部といっていいぐらい酒井さんの本をよんでみました。

ただ「おもしろかった」でおわるものもおおいけど、

『負け犬』の他にも『少子』『29歳と30歳のあいだでは』など、

社会の世相をするどくきりとったものもあります。

自分が「老化」を意識せざるをえない年齢からか、

本書は『負け犬』以降でいちばんたのしくよめました。

(吉田 淳)