野宿入門(かとうちあき・草思社)

奇書である。

著者は雑誌『野宿野郎』の編集長、

そして野宿の伝道師として注目をあつめつつある

かとうちあきさん(29歳・独身・女性)。

野宿にあこがれて、15歳のころから

あちこちを野宿してきたのだそうだ。

旅行など、なにかをするための野宿というのもありだけど、

ただ野宿することがだけ目的という純粋な野宿や、

終電にのりおくれたから、という消極的野宿まで、

野宿の世界はひろくふかい。

かとうさんは、なにもしらない野宿初心者を

ディープな野宿のおもしろさにひきこんでくれる。


でもそのアドバイスはすごくテキトーだ。

たとえば寝袋のえらびかたについては

アウトドアの本によくあるような

化繊か羽毛か、などについていっさいふれてない。

ホームセンターのやすい寝袋をかって

さむさにふるえることがあっても、

それはそれで野宿のたのしさ、

というのがかとうさんのたち位置である。

そんなことはどっちでもいいのだ。

(やすい寝袋はかさばるけど、

寝袋ひとつをぶらさげてあるけば

それはそれで『スタンド・バイ・ミー』みたいで

かっこいいような気がしてくる)。


かとうさんはなんの準備がなくても、

たとえばコンビニで段ボールをもらい、

安全にとまれそうな場所をさがして野宿する。

寝袋があればそれにこしたことはないが、

なくてもありあわせのものでなんとかしてしまう。

野宿のひきおこすもろもろのことを

おもしろがってしまうのが野宿の精神であり、

そうやって野宿スキルがたかまっていくと

身ひとつで夜をすごせるという自信が、

「なんとかなる」と、

生きることを楽に、たのしくしてくれる。

そしてその気分はすごく自由だ。


ほんとのことをいうと、

この本にはこむずかしいことはなにもかいてない。

野宿はおもしろいよー、というおさそいだけ。

そうはいっても

10月から4月までの本州の気候では、

外で夜をすごすことがどれだけさむいか

わたしにも多少経験がある。

夏は夏であついし、蚊にもなやまされる。

なんにちもお風呂にはいらないと、

からだがベトベトしてくるし、

雨がふれば場所えらびがむつかしい。

でもまあ、とりあえず


「やってみよう。深く考えずに、まずは、やってみよう」


と伝道師のかとうさんはわたしたちを野宿にまねく。


6月19日と、9月19日はかとうさんがきめた「野宿の日」なのだそうだ。

インタビューで「野宿の日にはなにをするんですか?」とたずねられ、

「野宿の日には野宿をします」

とこたえるかとうさんがすごくかっこいい。


野宿野郎』には

「人生をより低迷させる旅コミ誌」と

サブタイトルがついている。

そうかもしれない。

きっとたかいところにはつれていってくれないだろう。

でも、かとうさんの自由な生き方にわたしはつよくひかれる。

いくじがなくて、さむさによわく、

あつさもきらいで、

毎晩のお風呂をかかしたくないわたしだけど、

かとうさんのおさそいにのって

野宿デビューをしようときめた。

野宿はべつに「ひとり」をきどるものではない。

ひとりでも、ふたりでも、グループでも、野宿はありだ。

だれかわたしといっしょに野宿をしませんか?

(吉田 淳)