絶版をおそれて

本の雑誌社がだす『おすすめ文庫王国』をよむと、

文庫本がいかに絶版となりやすいかについてかいてある。

出版社によってそれぞれの本がランクづけされており、

ランク外に位置づけされると

いかに名作であってもそのまま絶版になりやすい。

村上春樹の本にもランク外があるし

(『像工場のハッピーエンド』『ランゲルハウス島の午後』など)、

パトリシア=コーンウェルだって『検死官』以外は

全部ランク外なのだそうだ。

文庫本は(単行本にしても状況はいっしょ)

いつ絶版になるかわからないので、

ちょっと気になる本は

本屋さんの棚にならんでいるうちに

かっておいたほうがよさそうだ。

わたし個人の体験でも、

いつかまたよんでみたいとおもう本をさがしても、

もう絶版になっていて、

こんなことならあのときかっておけばよかった、

と後悔することがすくなくない。

隠居後の生活のおおきな柱は読書となるはずであり、

よみたい本、再読にたえる本を

いまのうちからせっせと確保しておきたい。


というわけで、

このごろは、すぐによみたい本にくわえて

「いまはよまないけど、そのうちいずれ」

という本もできるだけかうようになった。

よほどかたまりのある時間がなければよまなさそうな本でも

なんとなくかってしまう。

けしてコレクターではないけど、

よみたいときに絶版になっていることを心配してのかいものだ。

かくして「つんどく」の本ばかりふえ、

本棚はすぐにいっぱいになるし、

おこづかいはどんどんなくなっていく。


このごろ話題になっている電子書籍がひろまったら、

本をめぐる状況はずいぶんかわってくるのだろう。

絶版というのもなくなりそうだ。

いちどデジタルのデーターにしてしまえば、

かさばらないからいつまでも市場にのこしておける。

電子書籍がちゅうしんに利用されるようになると、

クリスマスや誕生日のプレゼントとして本をおくることも

なくなるかもしれない。

便利さをたのしむだけにおわらず、

ずいぶんあじけない世界になりそうだ。

10年さきに、今井書店センター店が

どういう姿になっているか想像がつかない。

(吉田 淳)