自閉症スペクトラム障害のある人が才能をいかすための人間関係10の

自閉症スペクトラム障害のある人が才能をいかすための人間関係10のルール」

を読みました。

著者は「我、自閉症に生まれて」の作品でお馴染みの動物科学者テンプル・グランディン女史と

母ジュディとの共著

「There‘s a Boy in Here」の著作者である

記者ショーン・バロン氏の二人です。

自閉症スペクトラム障害のある二人を語り手とし

編集者が全体をまとめるというユニークな構成になっています。


「感情的なつながり」を追い求めるショーンと

すべてを論理的・分析的に思考し、社会との接点を見出そうとしたテンプルは

あまりにも対照的であり異なる道を歩んできたように感じました。

しかし、その過程での苦しみは同じであり

私たちの想像を絶するものであることに気づかされます。

また、最終的なゴールは同じであり

二人ともこの世の中で「生きる」ことを目指し、そして生き抜いてきました。

それ以上にすごいことが

この状況下で社会性を身につけ

さらに自分たちの才能を開花させてより充実した人生を歩んできたことです。

思うことは簡単だけれど、本当に僕たちには真似のできない

とてつもない努力と忍耐力によって生きてこられたのだと本を読みながら

つくづく考えさせられました。


自閉症者がなぜ苦しいのか

なぜ生き抜いてこられたのか

なぜ現在の自分があるのか等の自身の体験を詳細に語り

それを基にテンプルとショーンで導き出した

自閉症者が才能を開花させる幸せの答え」を

10のルールにわけてわかりやすく教えてくれます。

どんどんのめり込んで一気に読み上げました。


箇条書きにですが10のルールを紹介します

①ルールは絶対ではない。状況と人によりけりである。

②大きな目でみれば、すべてのことが等しく重要なわけではない。

③人は誰でも間違いを犯す。一度の失敗ですべてが台無しになるわけではない。

④正直と社交辞令とを使い分ける。

⑤礼儀正しさはどんな場面にも通用する。

⑥やさしくしてくれる人がみな友人とはかぎらない。

⑦人は公の場と私的な場とでは違う行動をとる。

⑧何が人の気分を害するかをわきまえる。

⑨「とけ込む」とは、おおよそとけ込んでいるように見えること。

⑩自分の行動には責任をとらなければならない。

以上です。本では各ルールについて

より詳細に説明が書き加えられていますので、ぜひ読んでみてください。


最後に今後の利用者への支援のヒントになるであろうと僕が考えている一文を紹介します。

「多くの人は、自閉症スペクトラムの障害のある子どもが

常日頃どれだけのストレスを感じているのか、おわかりならないでしょう。

たとえば、一度もスキーをしたことがないのに

いきなり超上級コース「ブラックダイヤモンド」のてっぺんに立たされたら

どんな気持ちがするか想像してみてください。

コースは狭く、こぶだらけで

ほとんど垂直の急斜面もあって

そのうえスキーブーツの履き心地は悪く

スキーウェアはかさばり

日差しで目がくらみ

雪もまぶしい。

今にもバランスが崩れそう。

それでもこの丘を下っていくしかないとしたら強烈なパニックに見舞われるでしょう。

でも、このまま立ち尽くしているわけにはいきません。

滑り出さなくてはいけないのです。

自閉症スペクトラムのある子どもは毎日そんな気持ちで人と接触しています。

パニック状態のうえに、スキルもないのです。(原文そのまま)」


当事者であり、また、その状況を何度となく克服した彼女の言葉だからこそ重みがあります。

みなさん、この文を読んでどう思われましたか?


僕は考えさせられました。

「もし、自分が毎日をこの過酷な状況で生活するとしたら」

と考えるとやはり大パニックになりそうです。

自分ならどうしてほしいか?どんな支援をしてほしいか?

「当事者の立場に立って考えよう。」

と支援をする時には、いつも暗示のように心で繰り返してきた自分がはずかしくなりました。

結局は自己満足の世界だったような気がします。

自閉症スペクトラムの人たちが日頃から感じている不安や恐怖は

僕たち健常者といわれる人間からは想像しただけでは計り知れない

とてつもない世界であることがこの言葉から推測できます。

ただし、読み終えた時に決して嫌な気持ちにはなりませんでした。

この本に出逢えたことに感銘を受け

一人でも多くの同士にこの本を紹介したくなったほどです。

僕にとっては最高のバイブルになるでしょう。

それほど大きな影響を受けました。


もっともっと紹介したいことがありますが

そうするとこの作品のすべてを紹介しなければなりません。

ぜひ、読んでいただきたい。

ひとりでも多くの人たちに。

きっと読んだ後に、自閉症スペクトラムの本当の苦しみや悲しみ

に1歩近づけたような気になるはずです。


テンプルとショーンの言葉には想像をはるかに絶するような苦闘の末に獲得した

この世界で生きるための成功のルールを

一人でも多くの仲間に伝えたいという強い使命感を感じました。

だからこそ、この本には今までとは違う大きな可能性を見出せたのでしょうか?


最後に、先ほどのスキーの話題に戻ります。

この本を読み終えて僕が感じた支援とは?

より滑りやすい環境と状況を作り出し

大きな安心感を与えてから肩を寄り添えて一緒に滑るような支援。

そんな支援が必要なのかもしれません。


もっともっと勉強が必要です。                     渡 部