俺はてっぺい

昨年の話にさかのぼるのですが、僕、ちばてつや氏の漫画にはまっていました。切欠は、「俺は鉄平」という作品でした。というのも僕の息子が当事、剣道を習っていたので、やる気を引き出す助力になれればいいなあという単純な思いつきで借りてきたのです。主人公の名も同じ「てっぺい」であり、何かしらの縁を感じたのかもしれません。早速、全巻を借りて「哲平、この漫画、読んでごらん。剣道漫画のうえに、お前と同じ名前の鉄平が主人公だよ。」と薦めてみました。

気がつけば、一番のぼせて読んでいたのは僕ではありませんか。今までにない主人公であり、新鮮に感じました。正直、はじめは「何だよ。こいつは。とんでもない人間だな。」と反感を感じていましたが、読むうちに、あまりにも人間くさく、自己中心的な性格の主人公にはまってしましました。良い解釈をすれば、ユーモアたっぷりの正直な人間とでもいいましょうか、悪く言えば、自己中心的なわがまま人間といえるかもしれません。ただ、僕の今までの常識からいうと、主人公=正義の味方=(礼儀正しい、明るい、やさしい)というイメージが定着していたので、違和感と同時に、新鮮さを感じたのかもしれません。

相手が傷つく言葉を平気で言ったり、時には暴力もふるう。また、勝つための手段は選ばない。というように、まったくもって武道精神に反する人間である上杉鉄平。しかし、勝負に勝つことへの執念はすばらしく、強くなるための努力はおしまない。また、不器用なやさしさに加え、愛嬌たっぷりのその表情に、最終的にはどんな人間も上杉鉄平の魅力にとりつかれてしまいます。今までに存在しない主人公像を書き上げる「ちばてつやさん」とは、どんな人なのだろう。」と興味が沸いてきました。

インターネットで調べて、びっくり。

弟に「プレイ・ボール」で有名な(故人:ちばあきお氏)、「イレブン」の原作で有名な七三太朗氏、と本人を合わせた3人ともに漫画界で成功をおさめた、まさに漫画家族だったのです。二人の弟の作品もすでに読んでいましたので、より驚かされました。どの作品もおもしろかったのですが、やはりてつや氏の作品、というか主人公が一番魅力的で心に残る気がします。

終戦時は満州で迎えたため、日本に帰るまでの間、生と死を強く意識しながら家族一丸となって必死で生きてきたという経験も大きく漫画に影響されているのかもしれません。視点を変えて考えると、「漫画家になるのだ。」という夢が、てつや氏を含む兄弟の「生き抜くのだ。」という原動力になったとも考えられます。


のたり松太郎」もおもしろかったです。この主人公も一般の社会常識から言えば「はずれた人間。」それも人間の上下関係や礼儀作法に厳しいといわれる角界が舞台であるため、余計にでも「松太郎」の非常識ぶりが痛快であり、この作品の魅力を一段ときらびやかにしています。ぜひ、一読してみてください。

最後に、「俺は鉄平」の効果も実らずに、息子「哲平」は剣道をこの4月で辞めてしまいました。でも、6年間休まずによくがんばったと思います。その代わり、大きな成果がありました。「将来は漫画家になる。」という夢が持てたのです。感想文を書いてその決意を話してくれました。「みんなを元気づける素敵な漫画を書きます。絶対にあきらめません。」と。それを聞いた時、「何が何でも6年生までは剣道を続けさせる。」という僕の勝手なこだわりがスッーと消えていきました。剣道を続けるよりも、もっともっと大きな成果でした。

夢を持ってくれた息子に、そして、大きな切欠をくれたちば先生に対して、心から感謝です。                    

                                     渡 部