わたしたちはとうとうオシムさんをうしなってしまった

オシムさんが日本をはなれることになった。


12月16日の朝日新聞

「代表よ大志を抱け」という題で

オシムさんの退任をしらせる記事がのった。

1年前に脳梗塞でたおれてから奇跡的な復活をみせ、

またグランドで指揮をとる姿がみられるのではないか、

という期待さえおおくのファンがもっていた。

しかしそれもとうとうかなわぬ夢となった。

これまでのような

ヨーロッパでの試合をみるための一時的な帰国ではなく、

おそらく最終的なものとなるだろう。

わたしたちはとうとうオシムさんをうしなってしまった。


そのすこしまえに発売された季刊『サッカー批評』には、

「私は日本のサッカーのために戻ってきた」

というスペシャルインタビューがのっている。


「わたしはサッカーの仕事を続ける。

それも日本のサッカーのために。

だから日本に戻ってきました」


この記事がかかれてから

新聞に退任のしらせがのるわずかなあいだに、

なにかが決定的にかわってしまったのだ。

おそらくは日本サッカー協会の方針の変更であり、

オシムさんにいてほしくないとかんがえる勢力が

状況をかえてしまったのではなかと邪推する。


インタビューのおわりで、

ききての木村元彦さんはこうむすんでいる。


オシムは再びサッカーをするために帰還してきた。

まだ自分は日本で痕跡を残していないという。

日本のサッカー界は彼をどう扱うのか。

もはや欧州の至宝を『劣情』や『政治』で

汚してはならない。

彼と仕事をするのは、協会なのかJリーグのクラブなのか、

いずれにしても義を持って見識と勇気を示す時だ」


どんなかたちでもいい。オシムさんには日本にのこり、

日本のサッカーについて注文をつけてほしかった。

そして、オシムさんにはそれをやる気があったのだ。

しかし日本の協会側はそれをのぞまなかった。

去年とおなじように

ふかいさみしさをかんじる年の瀬となってしまった。

(吉田 淳)