トホホになっても大丈夫

奥田英朗の『ララピポ』をよむ。すごくおもしろい。

でも、あんまり品がよくないので、

というか、かなり品がよくないので、

ここに紹介するのは気がひける。

どうしようかとこまっていたら、

つづけてよんだ『イン・ザ・プール』もよかった。

(でも、『ララピポ』もよんでみてください)。


伊良部総合病院の精神科が舞台で、

プール依存症、妄想癖、ケータイ依存所などになやむひとが、

運わるくこの病院をおとずれる。

ここの伊良部先生はまったくやる気のないお医者さんで、

患者さんの力になりたいなんてぜんぜんおもってない。

自分のおもしろいとおもうことはきくが、

そうでないことにはまるで関心をしめさない。


「言っとくけど、聞かないから」伊良部がいった。

「はい?」

「ストレスの原因を探るとか、それを排除する工夫を練るとか、

そういうの、ぼくはやんないから」


と、ずっとこんなかんじ。

でもって注射フェチなので、

診察もしないうちから

「じゃあ、注射打とうか」

と毎回かかさず注射にさそう。

じっさいにいたらたまらないタイプのお医者さんだ。


伊良部医院の精神科をおとずれるひとは、

だれもいったんは症状をこじらせる。

先生はなにも治療しないで、

自分の趣味でブドウ糖注射を処方するばかりだからあたりまえだ。

しかし、おちるところまでおちると

ひらきなおりの心境となって、

自分のこころの奥の声に耳をかたむける。

やがて自分が本来もっていた力を爆発させ、

症状はいっきに改善される、

というのがどの短編にも共通しているパターンだ。


なにをやってもうまくいかない、

負の連鎖におちいった人間のトホホ感をかくのが奥田英朗はとてもうまい。

ながい人生、だれにもそういう時期がくる。

そうしたときにたちなおる力となるのは、

けっきょくは自分自身なのだ。

伊良部先生はたすけにならない。

友だちをあてにしてもだめだ。

ひとは、なおるべくしてなおっていくのだから、

「そのとき」を気ながにまつしかない。


症状が改善されると、

これまで無能で不気味とおもっていた

伊良部先生のありがたさをかんじるようになる。

気もちに余裕がもどっているので、

わがままな伊良部先生をうけいることができ、

むしろその存在の貴重さに気づかされる。

伊良部先生は自分のことしかかんがえてないけど、

いつもそばにいてくれる。

その存在だけでもありがたいことがあり、

名医なんだかサイテー人だかわからない

伊良部先生はまさしくそんなタイプだ。

(吉田 淳)