つきちゃんの冒険

その日も少しでもつきちゃんの姿が見えなと、

 「つきちゃん、どこ?」

と家のあちこちを見ながらうろうろしていると、家族から

 「知らん」

の返事。まあ、そんなことはよくあるので、それならばと、大きな声で

 「つ~きちゃ~ん、ど~こ~?」

と叫ぶと、遠くの方から

 「にゃ~ん」

そしてある部屋の天井からミシミシという音。その音を聞いたつきちゃんからの信頼度No.1の家族Aが、

 「あらっ?開けっぱなしだわっ」

その言葉に私は懐中電灯を片手に2階へ猛ダッシュ。案の定、天井裏へ通じる扉が開いていたのです。

私はつきちゃんが入ったことのない天井裏で迷子になり、出口がわからず、あっちへ行ったりこっちへ行ったりしているものだと思いこみ、

 「つきちゃ~ん、ここだよ こっちへおいで~」

と、懐中電灯を照らし、中の様子をうかがいました。すると、時々つきちゃんのしっぽが見えたり、顔が見えたりします。しかしいっこうに出口の私の方へは来ません。あ~、懐中電灯がまぶしくてわからないんだと今度は思い、懐中電灯はつかわずに、ひたすら呼び続けました。そんな私の姿を見に来た信頼度No.1の家族Aから

 「冒険だわね、納得するほど遊んだら自分から出てくるわね」

さすが、信頼度No.1の余裕のあるお言葉。

それでも半信半疑の私は、今度は1階へ行き、ミシミシという音が聞こえる部屋に行っては

 「つきちゃ~ん、おりておいで~、家がこわれるがね~」(つきちゃんただいま5キロ)

と、つきちゃんを心配しているのか家を心配しているのか、わけのわからないことを言いながら音のする部屋へ行ったり来たり。 そんな姿を見ていた、密かにつきちゃんをかわいがる家族Bが、

 「ほらっ、今この部屋の上だわ」

と、つきちゃんを心配しているのか、うろたえている私の姿をおもしろがっているのか、ちょっといじわるっぽく言いました。なのでよけいに、ムキになり、再び2階に行っては天井裏をのぞいて呼び、1階に降りては、ミシミシの音を追いかけて呼びつづけました。しかし、ぜ~んぜ~ん降りてきません。

 しかたない、信頼度No.1の家族Aの言葉を信じて待ってみるかと思った時です。足下で

 「にゃ~ん」

と、冒険を満足しましたというような表情のつきちゃん。

つきちゃんの顔を見るなり安心したと同時に、つきちゃんの真意がわかっていなかったのは私だけかあ、そこに信頼度の差があるのよねえとしみじみ感じてしまいました。

 その後複雑な思いの私は、天井裏への入り口をしっかりと閉め、お気に入りのあたたかい場所でまるくなっているつきちゃんに、

 「冒険たのしかった? あぶないけんもう行くじゃないよ」

と、いつものひとり言。

 つきちゃんがうちに来て今年で10年になります。人間でいえば、60歳です。毎年なんだかんだと病院へ行くことがあります。これからますます心配です。TVのコマーシャルじゃないけど、ゆっくり年をとってほしいものです。冒険もほどほどに。

                              私への信頼度はどのくらいか心配な岩田でした