カッパをきて雨のなかへ

前作の『ウェブ進化論』でウェブ社会論をひろめた仕掛け人、梅田望夫さんの『ウェブ時代をゆく』(ちくま新書)をよんでいると、60ページ目に「島根県松江市」ということばがでてきました。この本にまるで関係なさそうな「島根県」という文字に、一瞬目をうたがいました。梅田さんは「世界のオープンソース・コミュニティで最も尊敬されている人物」として松江市在住のまつもとゆきひろ氏を紹介しています。まつもと氏はオープンソースプログラミング言語Rubyの開発をすすめているそうで、オープンソースプログラミングというと、リーナス=トーバルズのリナックスが頭にうかびます(というか、ほかにしらない)。まつもと氏のRubyは、そのリナックスにおくれることわずか2年で登場し、「全世界で数十万人が使う言語となり『Ruby』を使った何千もの開発プロジェクトが動く、日本発世界の数すくないソフトウェアになった」ということです。なんだかよくわからないけど、そんなすごいひとが松江にすんでるなんて!


その28ページあとに、こんどは出雲市にすむ女流棋士里見香奈初段のことがでてきました。羽生善治二冠のとなえる「高速道路と大渋滞理論」についてふれるなかで(ウェブ社会ならではの)「高速道路を猛スピードで走っている『少女』」として登場するのです。

過疎先進地の島根にすむものにとって、ウェブ社会への進化なんてほとんど関係ないことかとおもっていました。それが、あの梅田さんの本に2回もとりあげられるということは、どういうことなのでしょう。きっと、ウェブの世界ではとんでもない変化がおこっているというひとつのあらわれなのでしょう。ウェブ社会では、地方ゆえのハンディは以前とくらべてかなりすくなくなっているのはあきらかです。東京にいようが島根にいようが、かわりなく対等に世界とわたりあえる時代となっているのです。


情報をネット経由で簡単に、そして大量に手にすることができるいま、介護業界においても地方のハンディをかんじることはほとんどありません。

具体的な例をあげると、9月からはじまったネットでの介護サービス請求事務はスムーズとはいいがたい導入でした。でも、良質な掲示板がすでにたちあげられており、参考にできる情報を簡単に手にできて、ずいぶんとたすけられました。こちらからの情報提供はまだぜんぜんだけど、いつの日かこだま発世界の発言ができたらすごくかっこいい。


すきなことに集中しつづけるエネルギーとちょとした勇気(そんなにたいそうなものではなく、梅田さん流にいえば「雨の日にカッパをきて外にでるぐらいの勇気」なのだそうです)をもってあちら側の世界を自由におよぎまわりたいものです。

この『ウェブ時代をゆく』は、そのためになにが必要か、そしてこのあたらしい時代をどう生きることができるか、について刺激的な将来像をしめしたおすすめ本です。 (吉田 淳)