「死からの生還」

こんばんは。太田和です。
前回の続きです。

………
崖から転落し、木の枝に刺さり、ドクドクする腕を横目にこれは本当に死ぬかもしれないと、不思議と冷静な気持ちでいる自分がそこにいました。

薄暗い熱帯雨林の木の上で身体が絡まり身動きが取れなくなって、何分、何十分、何時間経ったのかだんだんと分からなくなっていきました。

すぐ近くで明らかな獣の気配とGrrr..Gru..Grrrrと唸り声も耳に入ってきます。
あとなぜかそれに混じって時々子どもの笑い声?みたいな声も…

ファァ!
ファァ ファァ
ファァ ファァ ファァ...ガッ!

今度は何かと思えば、自分の吐息でした。

出血と脱水で少しずつ朦朧としていき、やがて何も感覚がなくなってきて、なんだかとても気持ち良くなってきました。

いよいよ「死」すぐそこまで差し迫っているのか・・・
走馬灯はありませんでした。
たた急に目の前が真っ白になり、眩しくて目をぎゅっと瞑ってその先は覚えていません。


気がついたら木の下にうつ伏せに倒れていました。全身を強く打ったのか起き上がることができませんでした。本当に自分はまだ生きているのか半信半疑です。

夜明けが近いのか、ジャングルの空気がピンと張り詰めていて、とっても静かでした。

時間かけて少しずつ身体をひねり、仰向けの状態になることができました。腕には木の枝が折れてまだ刺さった状態でした。

また時間をかけて上半身をようやく起こし、座ることに成功したその時、、、

遠くの方から、、、
ザッ!ザッ!ザッ!ザッ!!

と、こちらの方に何かが近づいてくる足音が聞こえてくるじゃありませんか…

心臓が腕の傷口から出てくるかと思うほどの鼓動を感じつつ、音の方に全神経を注いで注視していると、二足歩行の生物の顔が見えました。

とっさに「人だぁ!!!」と僕の声にならないカスカスの音が辺りに響きわたりました。

するとその二足歩行の人間は、とんでもない悲鳴をあげ、マッハのスピードで飛び上がるように垂直に跳ねてから、腰を抜かして倒れこんで怯えるように後ずさりし始めました。

すかさず僕は、「Saya oran jupun...Minta tolong」(私は日本人です。助けてください)と必死のカスカス声で叫びました。

すると更に怯えたように「ヒィ~!!!」と後ずさりして、なんとその人?一目散に逃げて行ってしまいました…

呆然とする自分。
クラっとしてそのまま仰向けに倒れこみ、何が起きたのか整理していると、その人おそるおそる戻って来る気配を感じました。

「どうした?大丈夫か?」と
僕の身体に布を巻き止血をして、骨が折れてないか確認してくれました。
そして水と干した果物を取り出し、僕の口のなかに入れてくれました。

そしてその辺の木のツルで作ったロープで僕を固定し、背中に背負って険しいジャングルを抜けて彼の村の家まで連れて行ってくれました。

少し落ち着いたところで話を聞いたところ、その救世主は、天然ゴムの採集にジャングルにきたそうで、最初は上半身の血まみれ顔の男が急に目の前に現れびっくりし、さらに日本人だって言うから日本兵の幽霊だと思ってパニックになって逃げてしまったのことでした。

「少し休んだら、村の診療所に連れて行くのでこのまま寝ときなさい」
とその命の恩人は、丸太小屋のような建物から出て行きました。
…続く
                               
次回「終章~エピローグ~」