終章

こんばんは。太田和です。

前回の続き。

夜明けと共にジャングルから奇跡的に救出された僕は、木の家が立ち並ぶ小さな集落の小屋で身体を横たえていました。

どれくらいの時間が経ったのでしょうか。膝に力が戻ってき始めた頃、男が戻ってきて、僕を村の診療所にまた背負って連れて行ってくれました。

村の奥にある粗末な掘っ立て小屋の中に入れられると、目の前に3人の老婆がゴザに座っていました。彼女らは村の長老たちだとのことで、最長老は百歳を超えているそう。いわゆるシャーマンみたいな方々。

その三人は僕を囲んで顔を覗き込み、両手を波打つようにひらひらかざしながら、呪文のような言葉を唱え始めました。

「u~☆:'(:-$:-P:-!:-$:-|†‡¿;π☆ thupi chupa~」
「u~☆:'(:-$:-P:-!:-$:-|†‡¿;π☆ thupi chupa~」
「u~☆:'(:-$:-P:-!:-$:-|†‡¿;π☆ thupi chupa~」

老婆の白く濁った瞳は、今にも吸い込まれそうな凄まじい引力を持っていて、なんとも言葉で表現できない不思議な気配が押し寄せてくるようでした。

何分か程して、呪文?が終わり現地部族の言葉で何やら説明があったあとその小屋から一人出されました。

外に這い出て、連れて来てくれた男に今のはなんだったのか尋ねると、、、

大自然への敬意と感謝の意を捧げる言葉と、神聖なる白魔術?で森の精があなたをまたジャングルの奥地に連れ戻さないようお願いした…とのこと。

森の精?連れ戻す??白魔術?
何やらおとぎ話の世界みたいでした。

木の上で朦朧とした意識のなか聞こえた子どもの声は、森の精だったのか…


その集落の村人の話によると、実際に現地の人ですら毎年必ず何人かはジャングルで遭難して、帰らぬ人になっているそうです。
そして運良く助かった者の何人かは、発狂してやがては行方不明になるのだとか…

三日程その集落で、身体の回復を待ちながら過ごしました。

その集落に日本人が来るのは、第二次世界大戦以来らしく、ボルネオのジャングルの危険生物について村人が入れ代わり立ち代わり、レクチャーしに来てくれました。あなたはとてもラッキーだったと。

村人の話で覚えている限り列挙すると…
キングコブラ、毒蛇、サソリ、タランチュラ、マレーグマ ボルネオゾウ ボルネオウンピョウ、軍隊アリのはなし。

軍隊アリは何万匹?で移動し、その移動線上にいるあらゆる動物、人間やゾウをも襲うとのことでまさに最恐な生物。全てを飲み込んでしまうそう。

ボルネオ雲豹(うんぴょう)は、マレー語で木の枝にいるトラと呼ばれいる森のハンターだそうです…
(多分自分はコイツに殺られそうになっていると思います)

キングコブラはなかには、体長5mを超えるまで成長する個体もいて、毒を持つヘビとしては世界最大。フードを広げて、鎌首をもたげた姿も圧巻で、首をもたげただけで成人男性の背丈ほどの高さになることもあるとのこと。相手に毒攻撃を行った際、その体内に注入される毒量は1度の毒攻撃で、成人約20人分の致死量に相当するそう…


ゾッとしました…


なにはともあれ、九死に一生を得た僕は、その後、発見した泉から何kmもパイプを繋いで水を引き、生活するうえで一番大切な「水」を手に入れたのでした。



…あれから十年数年経ち、今では立派な孤児院が建っていて、たくさんの子どもたちがその水を使い生活しています。


そして僕は今、ジャングルから遠く離れたここ松江にいます。時々、自分でもなんだか不思議な感じがします。

家族ができて、とても幸せな日々を送ることができています。

決して当たり前ではない、この素晴らしき生活。

いつ何時も、まだ自分が生かされていること、忘れずにいたいと思っています。

大したことはできないけれど、助けられたこの残りの人生、全力で生きていこうと思います。


次はメガネ界のヒーロー野津さんです。