困っている子どもたちへの救いの作品
ー「子どもを殺して自分も死のうと思いました」
という一言が私の脳裏を離れません。ー
この文言がまずは僕の目に飛び込んできました。
(おもしろい本がないかな)と先週書店へ行ったときの事でした。
ふと手にした文庫本の序章にあったその文言を見た瞬間に、この本を購入する事を決めました。
竹内吉和氏とは現:特別支援教育士スパーバイザーであり
1000人以上の子どもの支援に携わった経験のあるベテラン教師の方です。
彼の想いは切実でした。
「子どもたち、そしてその家族を救いたい。」
その強い想いが彼の原動力となり
また1000人以上の認知に凹凸のある生徒たちへの関わりにより
発達障害の子どもたちの苦しんでいる原因を特定し、その解決方法を導きだしています。
多くの支援者にその奥義を伝授することで
一人でも多くの認知に凹凸のある子どもたちを
救いたいというのがこの本を執筆した理由だとおもわれます。
数多くの発達障害関連の本の中でも自信を持ってお勧めできる作品の一つです。
すべての内容を紹介したいところですが
今回は第3章の「学ぶ事ができない子どもたち」をピックアップして紹介したいと思います。
発達障害の子ども達は、その特徴として認知能力の弱さや
そのアンバランスがあると言われています。
認知能力、すなわち、見る、話す、聞く、覚える、考えるといった
知的機能に著しいアンバランスがあるのが発達障害でありこれが生まれつきなわけですから
おのずと課題に対して試すことができるスキルが限られてしまい、学習面で困難が生じます。
その事が原因で起きてしまう不幸が学習性無力感を抱き学ぶ意欲を失ってしまう事です。
無力感の本質は苦痛な外傷体験そのものではなく、外傷をコントロールできないという
「対処の不可能性」の継続学習だそうです。
では、その子ども達を救う手立ては?その原因は?
著者はこう力説しています。
人間が学ぶ時に必要な力には次の6つがあります。
1聞く力2話す力3読む力4書く力5計算する力6推論する力
その中でも最も重要な力として1の聞く力を著者はあげています。
一般的には「聞く力」と聞けば
「聞く力」=傾聴「相手の伝えたい事を「受容的・共感的態度」で「聴く」
力だと自然と連想してしまいます。
しかし、著者の考えは違います。
「聞く力」の正体は「聴覚的短期記憶」だと解明しています。
「聴覚的短期記憶」
人間として生きていく上で
他の人間とのコミュニケーションをその活動の中心と位置づけている以上
自分の意識が介在する短期記憶に重要な力があるわけです。
「聴覚的短期記憶」とは字のごとく聞いた事をほんの2、30秒意識的に覚えておく記憶をさします。
その機能に障害を抱えている子どもたちの多くが言葉が通じず
結局は授業についていけずに不安が増大していき最終的には学校に来れなくなるという
最悪の結果を招いてしまいます。
だからこそ、「聞く力」=「聴覚的短期記憶」の習得と
その子に合った適切な支援が必要になるという結論にいたります。
※一部、視覚も弱い子どもがいます。丁寧なアセスメントが必要です。
教育者、福祉支援員、相談支援員、医療関係者等
支援者に位置づけられる僕たちの姿勢や想い、そして行動一つで
その子どもたちの将来を大きく左右する場合が今後も多くでてくるはずです。
今、なお、「聞く力」に難題を掲げて必死にもがき苦しんでいる
子どもたちがたくさんいるはずであり
また今後も多くでてくると予想されます。
だからこそ、その子どもたちの気持ちに立って
何をどう支援すれば救ってあげられるのかを考える事が
まずは重要な第一歩となると思います。
僕たち支援者は日進月歩で解明されている最新の支援技術について
日々貪欲に学んでいかなければいけないとあらためて気づかされました。
渡部