すれちがう人に

休日。家の周辺を歩いていたときのお話。

コンビニでおやつをかって、iPodで音楽を聞きながら、家に戻ろうとしていたときのこと。


こちらに向かって歩いてくる人が目に入った。


その方は女性で、左手で小さなショッピングカートを転がしながら

ゆっくり、ゆっくり、一歩ずつ歩いてこちらに向かってきた。

歩幅はとても狭い。本当にいっぽずつ。


遠目の私は「おばあちゃんだな」と思い、

その女性の進行方向の邪魔にならないように、

さりげなく道を譲るように、横にそれて歩いた。


そのとき、

その女性のカートが「こつ」と電信柱にぶつかった。


電信柱は目の前にあるのに、ぶつかることをはじめて知ったように

女性は「あれ?」といった様子で電信柱をみて、

自分の前にカートをすこし持ち上げ、また歩き始めた。


すぐに歩き始められたが、まだまだゆっくり。

近づいていくうちに、その方が、高齢のおばあちゃんでなく、

若い女性、たぶん私と同じくらいの年齢の女性であることに気づいた。


淡い服の色だから、一瞬おばあちゃんに思えたのだが、

みると、とてもおしゃれをした女性だった。

ブレンディの原田知世のような、若い主婦がみるような本に出てくる服装だった。靴は刺繍がきれいなスリッパ(名前はよくわからんです)


でも、足取りはゆっくり。

すれ違う際に失礼とは思いながらもちらっとみると、右手がおなかのあたりでげんこつをにぎり、動いていなかった。


「そうか」その時にようやくわかった。

きっとその先にある、スーパーに買い物にこられたのだろうとも思った。


その方とすれちがった後、もうひとつわかったことがある。

言われれば気づくくらいの、道がゆるやかな斜面になっていて、

その女性からすれば、くだりになるということ。

ゆっくり歩いていたことにもうなずけた。

「気をつけて」と思いながら、離れながらも、見守るようにすこし後ろから見させていただいた。

中学生の自転車集団が、その女性の斜め向こうから現れ、

きゃっきゃと話しながら、女性の前で分散して通りすぎていった。

女性は立ち止まったと思うと、

中学生の自転車が通り過ぎるまで動かなくなり、

通りすぎるとまたゆっくりと一歩ずつ歩きはじめた。

その光景は、向かい風がやむのをまっているようにも感じた。


いでたちといい、まっすぐ前を見つめて歩く姿といい、

すてきないきかたをしておられるのであろうと、

まったくもってこちらの一方的な印象をうけた。


もし今度であったら「こんにちは」くらい言おうと思う。

川上