やさしい社会の一員を1人でも増やしたい

3年前の出来事である。場所は出雲市内にあるとあるラーメン店。

昼時にも関わらず、お客は僕と息子、そして男性客が2名という

大げさにも流行っているとは言えない寂しい状況であった。

ふと店内を見渡すと、厨房には50代ぐらいの店長と思われる男性と20代そこそこの男性店員、

そしてレジ付近には60代ぐらいの年輩の女性店員が1人で不安そうな表情で佇んでいた。


「注文お願いします!」

と女性店員さんに向かって声をかけると、おどおどとした表情で僕たちの方へ近づいてきた。

注文票を持ったまま、無言で立ち尽くすこと数十秒。手先は震え、今にでも泣き出しそうな表情である。


(あ!もしかしてこの女性はコミュニケーションをとることが苦手なのかも・・・)

と直感した僕は、


「あわてなくても大丈夫ですよ。もう一度ゆっくりと注文しますからね。」

と声をかけると


「は、はい」

とか細い声ではあったが、すぐに返答をしてくれた。

そして、深い深呼吸をした後に、僕と息子の注文品を無事に記入し終えた。


さぞかし店長は怒っているのではないかと心配になり、厨房の方へ目をやると

なんとその店長は女性店員の肩をポン!とやさしく叩いて笑顔で何かをつぶやいていた。

自然と表情が和らぐ女性店員。店内で見る初めての笑顔だった。

その瞬間、僕の心が自然と温かくなっていくのを感じた。

その時食べたラーメンは格別な味であった事を今でも鮮明に覚えている。


(みなさん、がんばって下さい。また来ます。)と心でつぶやきながら店を跡にした。


数ヶ月後、再び、そのラーメン店を僕は訪れた。

し、しかし、あるはずのラーメン店は消え

代わりにできた焼肉店が、皮肉にも僕の目の前で憎たらしいほどの佇まいでそびえ建っていた。


(もしかして・・・・。みんな、大丈夫かなー。元気にしているだろうか・・・)

不安が僕の頭を過っていった。


今となっては、お店が撤退した理由を僕が知る由もない。

ただ、現実の厳しさを痛感すると共に、店長とあの女性店員の現状を願わずにはいられなかった。


僕は心から願う。そして信じたい。

あんなにがんばって働いていた女性やあんなに心が広く大きな優しさを持っている店長には、必ず幸が訪れる事を・・・。

同時にあの2人のような人々が報われるような社会になる事を・・・。


        

        次は田崎さんです。