なぜクマの被害がふえたのか

『となりのツキノワグマ』(宮崎学・新潮社)


今年はクマによる被害がよく報道された。

よくきく説には

「山が荒廃しているから、

クマはえさをもとめて里にでてきてしまう」

というものがある。

ほんとうだろうか。


この本では、定説とはまったくちがう実態がかたられている。

「山の荒廃」とは林業からみてのことであって、

動物からみると実をつける多様な植物がおいしげる

ゆたかな森となっているのだそうだ。

「それらをえさとして、

イノシシ・シカ・カモシカ・サルなどの動物が急増してきた」

という。


もうひとつの説には、

杉やヒノキなど、

動物のエサにならない木ばかりを植林した結果、

クマが里山に出没するようになった、

というものがある。

しかし、著者はけもの道にしかけたカメラでの撮影により、

この説も否定している。

植林がすすんでいた時期にはクマはカメラにうつらず、

山がほっておかれた2000年以降に頻繁にあらわれるようになっている。


「今年はドングリが不作だから・・・」

もよくきく説明だ。

しかし、クマは山でドングリばかりをたべているのではないことも指摘してある。

ヤマブドウやノイチゴなどの植物のほか、

アリやイワナなど、動物質のものをこのんでたべるクマもいる。

ジビエブームでクマ肉の需要もあり、

肉屋さんにはこばれてくるクマもいて、

それらの解体されたクマの毛皮の下をみると、

脂肪がぶあつくおおっているのがわかる。

著者によると

「痩せてるクマなど、1頭も見たことがない」そうだ。


どうやら定説は実態をあらわしていないようだ。

山の環境が動物たちにとっていごこちがよくなった結果、

数がふえすぎて里山におりてくるようになり、

人間と遭遇することがおおくなった、というのが

ほんとうのなのではないか。

いちど人口に膾炙した説は、

もっともらしくてついうのみにしてしまう。

よくいわれていることほど

簡単に納得しないで真偽を確認したほうがよさそうだ。

(吉田 淳)