秋の夜長をいかんせん

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友人からのメールに

「秋の夜長は、どのように過ごすつもりですか?」

とあった。

わたしのすきな言葉に

「秋の夜長をいかんせん」があり、

そうはいっても

けっきょくは本をよむぐらいしかすることがないわけだけど、

すこしさむいぐらいの秋口に気にいった本をひらくのは

ほかのどの時期の読書よりもおもむきがふかい。

今年もようやくその大すきな秋をむかえることができた。


最近よんだ本では

山本幸久さんの『笑う招き猫』(集英社文庫)がおもしろかった。

女性2人の漫才コンビ『アカコとヒトミ』をめぐる青春記。

夢だけはおおきな(めざせカーネギーホール!)わかい2人が

ミニシアターでのライブからスタートして

だんだんとちからをつけていく。

おわらい界の底辺には、

彼女たちのように貧乏でさえないけど、

でもこわいものしらずで、

そうかとおもうとなんだかんだですぐおちこんで、という

青春期ならではのヒリヒリしたときをすごしている若者が

おおぜいいるのだろう。

そうしたささやかな青春を、

さりげなくきりぬいた山本幸久さんのうでは本物だ。

これがデビュー作とはおもえないほど完成度がたかく、

さわやかな物語にしあがっている。

デビュー作はいきおいでかける、

大事なのは2作目だ、

という意見をきいたことがあるけど、

こうした本にであうと、

実力のあるひとは1作目からそのひとならではの

確固とした世界をしめしていることをつよくかんじる。

他のひとには絶対にかけない。そのひとだけの世界だ。


この本をよみおわると、

「アカコとヒトミ」のいきおいのある漫才が頭にうかぶようになる。

彼女たちの即興のうたをほんとうにきいたことがあるような気がするし、

2両編成の世田谷線がリアルに目にうかぶ。

そうした本、そして小説家にであうことができ、

さいさきのよい秋のスタートとなった。

(吉田 淳)