幸福の方程式(ディスカバー携書:山田昌弘・電通チームハピネス)

幸福とはなにか。

20年以上前に明石家さんまさんは

「ポン酢醤油のあるうち」と喝破しました。

ただ、たしかにそれはひとつの真理ではあるものの、

すべてをいいあらわしているわけではありません。

いったいわたしたちはなにがどういう状態を

「幸福」とかんがえているのでしょうか。


ながいあいだ、

幸福とは結局のところ物質的にみたされることでした。

商品を消費することがそのまま幸福にむすびつきました。

テレビや自動車をかうことで、家族中が幸福になれた。

しかしいまはもう、単にものをかうことで

幸福になれる時代ではありません。

本書は、「幸福そのものの検討」と

「新しい幸せの形」をあきらかにしようとしています。

キーワードのひとつは「つながり」です。

ひとりでは絶対にしあわせになれません。

自分がなにかと「つながっている」ことで

しあわせをかんじることができます。

「つながり」には3つのタイプがあります。


ひとつめは、自分の内部とのつながり。

ふたつめは、社会と自分のあいだのつながり。

みっつめが、身近な他人とのつながりです。


「自分の内側、社会、周りの人々との間に

つながりをつけることが

幸福を生み出すスタイル」ということです。


この「つながり」に

幸福と時間との関係からとりだした3つをくわえ、

全部で5つが、

「新しい幸福」をとくための鍵としてあげられています。


○自分で自分の存在を肯定すること・・・自尊心

○自分の居場所が仲間のなかにあること・・・他者からの承認

 (他人からみとめられなければ私たちは幸福になれない)

○どれだけ夢中になれたか・・・時間密度

○自分の考え方や行動を好きなように決定できること・・・裁量の自由

○自分にとって適切な難易度のものととりくむ充実感・・・手ごたえ実感


じつは、この5つの鍵のすべてをみたすことのできることが、

身ぢかなところにあります。

なんと、それは「仕事」なのだそうです。

「今は、やりがいのある仕事が、

もっとも幸福感を与えてくれる」

ものになっている、ということです。

以前は、仕事をできるだけとおざけて自由に生きたいと、

おおくのひとがのぞんでいました。

その仕事こそが幸福につながる時代がくるなんて、すごく皮肉です。

ただ、会社での仕事には定年という制度がつきものなので、

定年後にまったく仕事とはなれてしまわないよう、

NPOなど収益性はひくくても

やりがいを優先させての仕事をつづけることを

この本では提案しています。

極端なことをいえば、

お金をはらって仕事をすることもありえます。

まさしく「消費」としての「仕事」であり、

つながりをたもち、

幸福の鍵をみたすためには

これからはあたりまえになる生活スタイルかもしれません。


山本幸久の小説『凸凹デイズ』の帯に

「恋愛じゃなく、友情じゃなく、仕事仲間」

というのがあります。

この小説は、若者を主人公にした物語でありながら、

恋愛についてのものでも、

友情についてのものでもありませんでした。

気のあった仲間と仕事に熱中できる

充実感こそがえがかれています。

「恋愛じゃなく、友情じゃなく、仕事仲間」。

本のおもしろさから、すごく共感したこの言葉は、

現代の幸福についていいところをついているのでしょう。

たしかに、よい仕事仲間にかこまれて

仕事に熱中できることは、

得がたい充実感をもたらしてくれます。

でも、いちばん幸福の鍵をみたすのは

ほんとに仕事なのでしょうか。

これから1年かけてかんがえてみたいとおもいます。

(吉田 淳)