こんなときには中島みゆき

サービスをおえて事務所にもどるとき

ラジオから女性のちいさな歌声がながれてきた。

ささやくような独特のうたいかた。

まだあまりうれない新人さんかな?

印象的な歌だな、とおもって集中してきいた。

中島みゆきの『ファイト』だった。


レンタルでかりてきこうと曲名をメモする。

でも、あとでわたしのiPodを確認すると

すでにはいっていた。

アルバム『大吟醸』のさいごの曲だ。

このアルバムではほかにも

「悪女」「わかれうた」「ひとり上手」「狼になりたい」

がうたわれている。

あの日以来、この『大吟醸』をきくことがおおくなった。

わたしは中島みゆきがすきだったのだ。


平凡なわたしの生活にも

ときどき予想外のことがふりかかり、

大切にしているささやかなしあわせが

暗礁にのりあげる。

村上春樹なら登場人物に「やれやれ」とつぶやかせたり、

玄関マットを登場させるところかもしれない。

いろいろなひとが土足でわたしの生活に侵入してくる。


こういうときは中島みゆきだ。

あまりにもあたりまえすぎる選曲ではずかしいけど

大吟醸』にお世話になることがおおくなる。

どうせおれは玄関マットみたいなもんだ、

どうぞかってにふんづけてくれ、

とすこしだけタフな気もちをとりもどす。

どうして彼女はこんなにひとのこころがわかるのだろう。

(吉田 淳)