不覚にもおいしかったナポリタン

ナポリタンなんて、まともなスパゲティじゃない、

とずっとおもっていた。

スパゲティにケチャップをからめたら

西洋料理のできあがり、という

安直さが気にいらない。

お弁当などのつけあわせの

ケチャップあえのメンは、

いったいなんのつもりなんだ、と

まえからつめたい視線をおくっていた。

そのナポリタンをつくってみる。


飯島奈美さんの料理本『LIFE』をかったのがきっかけだ。

本の帯には

かもめ食堂」のフードスタイリスト

飯島奈美がつくる、

ほんとうにおいしい22のレシピ


とある。

「はじめに、ちょっと」として

糸井重里


・まずは、自分なりの工夫なんかもやめて、

レシピそのままつくってみてください。

・自分と、好きなひとにつくって、

いっしょに食べてください。


とかいている。


やってみるとわかるけど、

「レシピどおり」というのは意外にむつかしい。

ミートソーススパゲティでは

ひき肉をやくときにでる脂を、

ペーパーでしっかりすいとることがもとめられるし、

ハンバーグではただの「あいびき」ではなく、

牛ひき肉(赤身)350グラム・豚ひき肉(脂多め)150グラムと

かなりめんどくさい。

めんどくさいけど、レシピに忠実につくったのに、

できあがった料理は、

そうおおさわぎするほどのできではなかった。

で、ナポリタンからはかなり手をぬいて

自分流にすすめる。


メンをゆでる。アルデンテではなく、

わざとのばすためにそのままおいておく(これは本のレシピどおり)。

材料にしめしてあったマッシュルームはたかいので、

シメジでかんべんしてもらう。

いためた具をいったん皿にうつし、

あいたフライパンでメンをいため、

煮つめたトマトジュースとケチャップをくわえる。

具をもどして一気にまぜる。


不覚にも、おいしかった。

日ごろつくるかなり本格的な(と自分ではおもっている)

トマトソースやミートソースよりも

たべやすかったともいえる。

イメージとしては、

カリオストロの城』のなかで

ルパンと次元がとりあっていた山もりのスパゲティにちかい。

あれはもしかしたらミートボールをつかった

ナポリタンだったかも。


これまでみくだしていた

ケチャップまみれのメンを

日本風にズルズルすする。

いつのまにか「パスタ」なんてよばれるようになった

スパゲティだけど、

このナポリタンだけはパスタじゃなくて

あくまでもスパゲティだ。

(吉田 淳)