今日は天気がええけん今日しなしちゃる

『パーマネント野ばら』(西原理恵子新潮文庫

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離婚した「なおこ」は、

実家の美容院「パーマネント野ばら」にでもどりしている。

西原理恵子のディープな世界なので、

でてくるひとはみんな人生のどん底をみながらも

「カカカ」とわらいとばして生きている。

たてまえなんてつうじない

むきだしの生がすごい迫力だ。


なおこのお母さんは

なおこが離婚しているあいだに再婚し、

でもそのあいては

となりのナス農家のおばさんと同棲中だったり、

なおこのおさななじみの「みっちゃん」は

フィリピンパブを経営していて、

浮気しまくるダンナを車でひいたし、

漁港のまぐろ屋さんではたらく「ひろこちゃん」は

20年ずっとダンナに靴下をだすだけの存在だったことが

ある日突然いやになって、

ダンナの腹をさした。

そんな、ちょっとやそっとのことではおどろなかない、

人間の本性をしりつくしたひとばかりが登場する。


すごいのが「ゆきママのママ」で、

なおこたちのまえにあらわれて

「じいさんがたおれたで 

今、虫の息じゃ」という。

「救急車は?」とあわてる周囲に「ゆきママのママ」は

「いんや

今日は天気がええけん今日しなしちゃる」と。

「ゆきママ」は「それもそうやねえ」と

すぐ納得し、まわりも

「ええとこはぎょうさんあったけどー」

「悪いところはその100倍はあったかなー」

とあかるくわらう。


家にもどった「ゆきママのママ」が

玄関の戸をいったんあけ、

すぐまたしめた。

「あかん

まだ虫の息があるような気がする。

もうちょっとおいとこ」

というのがすごいし、

その理屈は

「人間はなあ 神様が決めた日にいくんが

一番ええんじゃ

いたずらに助けたらあかんっ」

まわりできいていたひとがうなずきながら

「人間ながいこと生きとると

えーたてまえ言うようになるなあ」

と感心してたのがおかしかった。


めでたく葬式になり、

挨拶をする「ゆきママのママ」は

ダンナのことをおもいだしながら

だんだん腹がたってくる。

「ゆきママ」や「なおこ」たちは

まあまあとなだめながら、

「そしたら順番守って

先に死んでくれたお父ちゃんにカンパーイ」

「ほんまになー 今までようがんばった

えらかったでお母ちゃん」

「けどまあ もう15年くらいは

はよ死んでくれても良かったなー」

「男は はようにおらんなるに

かぎるなー」

となぐさめていた。

人間はきれいなものではない。

でも、すごくやさしくもある。

西原理恵子の魅力は

それを赤裸々におしえてくれることだ。

(吉田 淳)