だれが村上作品をよんでいるのか?

7月25日づけ朝日新聞の土曜日版(be on Saturday)に、

村上春樹の作品を読んだことがありますか?」

というアンケート調査がのっていた。

「beモニター」5991人から回答をえての記事だ。

『1Q84』が発売から約1ヶ月で200万部を突破したことから、

いまはなにかと村上春樹氏が紙面をにぎわすことがおおい。


この調査によると、

45%のひとが村上作品をよんだことがあり、

そのうちの51%が「村上春樹氏が好き」とこたえている。

ある母体の45%がよんだことがある、

というのはおどろくべき数字ではないだろうか。

まえに斉藤美奈子氏の本を紹介したときに、

読書はメジャーなようでいて、

じつは一部のひとしか関心をもっていない、

ものすごく辺境に位置づけられる趣味であることをかいたことがある。

その状況がいちじるしくかわったわけではないだろうに、

村上作品を45%のひとが「読んだことがある」というのは

さすが朝日新聞の読者、というところだろうか。


51%がすきということは、

49%は「いいえ」ということで、

その理由として

24%のひとが「『ノルウェイの森』で懲りた」

としているのにはわらってしまった。

「好きでない理由」に作品名があがっているのは

この『ノルウェイの森』だけであり、

ベストセラー作品として

はじめてハルキ小説にふれたひとのなかには

つよい拒否反応をかんじた方がすくなくなかったようだ。

be紙上でもかかれているように、

ノルウェイの森』は唯一のリアリズム作品であり、

それなのに、なのか、それだからこそ、なのか、

はっきりと賛否がわかれているのが興味ぶかい。

もっともこれは、

ノルウェイの森』がうれているわりに

駄作だったことをあらわしているのではない。

「好きな作品は?」の答えとしても

ノルウェイの森』は第2位の『海辺のカフカ』を

2倍以上ひきはなして堂々の1位となっている。

回答者数5991人のうち2228人、

じつに37%のひとがこの作品をよんでおり、

この数字は第2位の『海辺のカフカ』が

14%でしかないことをかんがえると、

圧倒的におおくのひとによまれた作品なのだ。

万人に愛される作品というものはないことが

この本からもわかる。


ちなみに、

いま社会現象となっている『1Q84』を

「読んだことがある」のは241人であり、

第20位にランクされているにすぎない。

200万部うれても現段階では20位、というのが

春樹ファンの層のあつさをものがたっている。


 わたし個人のこのみでは、

世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド

がいちばんすきな作品だ。

なんどもよみかえし、

そのたびにあらたなおもしろさに気づく。

サンドイッチの作り方から胃拡張の女性とのつきあい方まで、

はばひろく、おおくのことをまなぶことができた。


新聞でもラジオでも、

なにかと『1Q84』を耳にすることがおおくなった。

チェーホフの『サハリン島』など、

いくつかの関連図書も紹介されている。

わたしはまだ『1Q84』をよんでいないので、

よまないうちに既存のイメージをつくらないよう、

いまはできるだけ情報を遮断しているところだ。

はやくよみたいような、よまなくてもいいような。

ベストセラー作品への感情は

どこか素直でないところがある。

(吉田 淳)