ぶっかけ飯の快感(小泉武夫・新潮文庫)

あついご飯になんだかんだのせて

わしわしたべる快感は、

日本人ならではのしあわせだろう。


とかいて、この記述は正確でないことにすぐに気づく。

日本以外の、たとえばアジアの国々にも、

各種のぶっかけ飯は存在する。

あんがいぶっかけ飯こそ人類の、

とかきかけて、こんどはネコまんまのことが頭にうかんだ。

人類でもほ乳類でもまだカバーしきれない。

すべての生物のDNAにうめこまれている

根源的な快感としてぶっかけ飯を意識するべきかもしれない。


まったく、ぶっかけ飯はうまい。

本書には

「猫飯こそ食味の悟り」

「C級食人絶賛のコンビーフ丼」

「食欲止まらぬ餃子丼」

など、すぐにでもたべたくなる簡単「料理」が満載で、

いずれも主役は「ご飯」だ。

メンチカツやビフテキまでも、

最後にはご飯のおかずになってしまうから、

著者の「ぶっかけ飯」への愛、

もしくは依存度はそうとうたかいといえる。


「猫飯」について紹介すると、


 「カレイやサバを煮付けた時にでる汁を冷蔵庫におくとできる煮凍りを、

 翌日丼に盛った熱いご飯の上にかけて、

 溶かしながらかっ込む猫飯の旨さといったら、

 今度こそ食味の悟りが開けてしまうほどです」

 

 とある。ぶっかけ飯へのなんというおもいいれ。

 そして、

 

 「何と何と格安にしてこんな美味な猫飯があったのかと、

 このところ賞味する度に思うのが、

 サバの水煮缶詰」

 

 とつづく。

 そのつくり方は、

 

 1 缶詰のサバの身を取り出し、

   少し固めの背肉と

   腹も(腹肉部)に分ける。

 2 丼にご飯を盛り、

   腹もを全部載せ、

   缶に残った水煮汁を全部かける。

 3 醤油をかけ、一度ざっとかき混ぜる。

 

 なので、だれにでもまちがいなくできる。

 

本書の帯には「B級・C級・D級グルメの決定版」とある。

この本1冊で手にいれられるしあわせは、はかりしれない。

A級グルメばかりがかまびすしい昨今にあって、

これこそが真の料理本といえるだろう。

(吉田 淳)