『クローディアの秘密』

『クローディアの秘密』(L.E.カニグズバーグ著 岩波書店)をねるまえにむすこによんでみました。

あとひと月で12歳、という女の子クローディア=キンケイドがおとうとのジェイミー(9歳)を仲間にえらんで家出をするはなしです。ちょっとよみはじめただけで9歳のむすこはこの本にすごくひきつけられました。クローディアは現代っ子なので不快なおもいをする家出なんて最初からかんがえていません。慎重に計画をたて、ニューヨークにあるメトロポリタン美術館を家出先にえらびました。「家出をする」のではなく「家出にいく」というスタイルです。


むすこはこれまで現実的なものとしてはかんがえてこなかった「家出」について、きゅうにあついおもいがこみあげてきたようです。学校にいくのがいやなこと、友だちづきあいがうまくいかないことがあること、家族への不満。それらを一挙に解決してくれるスーパー裏技がこの家出なのです。具体的になにがどうしたわけではなくても、象徴としての家出がむすこのこころをとらえたようです。家出の計画をねる彼はとてもたのしそうでした(携帯電話がいるなぁ、テレフォンカードも必要かも、とか)。


松江にすむ小学生が不愉快なおもいをすることなく実現することができる家出場所はどこでしょう。まだまだ世の中のしくみとかきまりとかにうといむすこに、親切な父親は有益なアドバイスをほどこします。まず現金が必要なこと。通帳をもっていても、小学校4年生が銀行でお金をおろせばきっとあやしまれるでしょう。つぎにランドセルや旅行カバンなんかをもっていてはだめなこと(クローディアはバイオリンのカバンに着替えをつめました)。それに、サティなんかに家出すると、警備のひとにみつかっていまうであろうこともはなしました。


ていねいに説明すると、おろかなむすこでも、なかなか家出もむつかしそうだ、ということがわかってきたようです。一人っ子の彼は、クローディアのようにおとうとを仲間にひきよせることができません。すこしかんがえてから、こともあろうか親のわたしを仲間にえらぼうとしました。かわいいけどすごいバカ。親が仲間の家出なんてあるのでしょうか?それともわたしのもつ潜在的な不満を敏感にかんじとり、家出を真に必要としている仲間としてえらんでくれたのでしょうか。


子煩悩の父は、ちょっとまえによんだ吾妻ひでおの『失踪日記』のスタイルをむすこにはすすめました。町からすこしはなれた林にかくれひそむやり方です。ニューヨークのような大都会ではない松江では、大型の文化施設はありません。それよりも山のなかにかくれるほうがより現実的です。『失踪日記』にも興味をしめしていたむすこは、自分も吾妻氏とおなじように「乞食」よりも「ホームレス」がいい、と素直に納得しました。それなら食料をあらかじめ用意できそうだし、時期をえらべばさむさやあつさはさけられるし。


そのうち彼はどこかの山へこもることになるかもしれません。そうなったら、わたしはこころに余裕をもちつつも、おおあわてで息子の不在を心配しようとおもいます。(吉田 )