雫、だいすきだ!

なんとなくつけていたテレビで

耳をすませば』をやっていた。

なんどもみたはずなのに、

すこしも記憶にないシーンがある。

こんな内容だったのかと

まるでべつの作品のように新鮮にみることができた。


「自分はいったいなにものか」

ということになやむ中学生の聖司と雫(しずく)。

自分のちからをためすために

聖司はイタリアでのバイオリン製作の修業にむかう。

雫は聖司をまつ2ヶ月のあいだ

全力でものがたりの創作にとりくむことにきめた。

テスト勉強もしないので

両親や姉は心配するが、

とにかくいまの自分にはそれがだいじなことだからと、

確信があるわけでもないのに、

創作にむかわずにはおれない。


魔女の宅急便』でもあったように

クリエイティブな仕事につくことは

たとえ才能があったとしても

楽なことではない。

「画家の血」や「魔女の血」がそうさせるけど、

その血ゆえのくるしみも当然つきまとう。

耳をすませば』の聖司と雫には

どうやら才能があるようだけど、

才能の有無だってほんとはあまり関係がない。

自信がなくてもとにかく

自分をしんじてやるしかない。

わたしは

わかい時期ならではのアンバランスさに

とまどったりいらだったりする作品に

すがすがしさをかんじてひかれことがおおい。

ただ、それを「すがすがしい」というのは

あとからふりかえった中年がいうことであって、

当事者としてはたいへんな時期なのだろう。




ラストでは聖司が雫に結婚をもうしこみ

雫はそれをうける。

さいごは「雫、だいすきだ!」

というストレートな言葉。

エンディングタイトルとともに

カントリーロード』がながれる。


ひとりぼっち おそれずに  生きようと 夢みてた

さみしさ おしこめて 強い自分を 守っていこ


しびれた。

この作品では上品すぎず下品すぎず、

とてもきれいに(ぬけぬけと)

中学生の恋愛をあつかうことに成功している。

中1になったむすこにもみてほしかったけど、

彼はちがうテレビで別のバラエティ番組をみていた。

ちょっと残念だったけど、

それでいいような気もした。

(吉田 淳)