魔女とふたりのケイト/K・M・ブリッグズの世界

妖精がでてくるはなしがよみたくなって県立図書館で『魔女とふたりのケイト』(K・M・ブリッグズ・岩波書店)をかりる。妖精についてしりたくなったのではなく、妖精がいることがあたりまえのこととしてとらえられている社会を舞台にした物語、という意味だ。この手の本ではおなじ作者の『妖精ディックのたたかい』をまえによんだことがあり、その記憶をたよりに今回もまたおなじ作者の本をえらんだ。


妖精たちが夜のあいだに仕事をすすめてくれる童話があるように、人間に親切な妖精もいるけれど、もちろん人間をたぶらかす妖精もまた存在する。ハシバミの枝を玄関にかけておく、とかあたたかいミルクをのむとか、妖精の影響をよわめるまじないもないことはないが、基本的には妖精たちのちからをみくびらず、人間にあたえられた範囲の世界を謙虚に生きるしかない。そういう世界観がわたしはすきなので、ときどきこういう本をよんで浮世からはなれたくなる。


舞台は1640年から50年代にかけてのスコットランドイングランドスコットランドといっても、エンヤの曲から連想されるようなすきとおった世界ではなく、王党派とかクロムウェルとか、歴史でならったような言葉があちこちにでてくる戦時のころだ。


ストーリーにはふれない。石井美紀子さんの訳がぴたりとはまり、その世界を充分に堪能することができた。魔女や妖精とおりあいをつけてくらしていた時代がたしかにあったことをおもうと、現代の文明社会に生きるあじけなさがすこしかるくなる。スコットランドが隠居後の旅行にでかけたい場所のひとつとなった。